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賣卜先生糠俵序(原文) 無か有の里に翁あり。賣卜先生と いふ。終日舌を耕ども。躯に培ふにも あらず。子に對しては。孝を演べ。臣に 遇ふては忠を説ども。自行事不能 陰陽師身の上知らずといふも宜也。 本より不學者論に不負。口かる儘に 實も無ひ事を云ひ散らせば。糠俵と 題して其口を緘ぬ。 安永六年丁酉五月 虚白斎 |
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賣卜先生糠俵 (第一話) 賣卜先生席を改め一番誰はじゃ 私は縁組の事に付き御占が頼たし。翁算木を 投て曰。望て人は二人望れてはひとり一方は男ぶり 不足なけれども外の事に少し言分。又一方は 外に云分なけれども男振が少し劣る歟。女の曰 扨ゝきつい見通しさま仰の通り一方ハ器量に 不足なけれども親連は昔かた氣。 暮方が上過るの 格式が能過る何角と申されます。又一方は諸事 質素倹約を守る家。親連は此方を望なれど器量は |
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左程にござりませぬ。翁の曰親連は何といふぞはい。 親連は質素な方を望なれど私が顔を見て縁の 道ばかりは押付けられぬ其方の心次第と有故に 私も心迷ひ占に任する氣。翁目に角立て曰卜以 決疑不疑何卜同じ路二筋有て問人も無く不知 ときは卜て天に任す。一筋道に卜は入らぬ。此縁組に 畳算も入物歟。縁の道ばかりは押付られぬなどゝは 親達も親達育てが悪い。汝も嫁入せば子を持て思ひ 知れ親の子を思事假初ならず我なき後にも 兎有うか角はあるまいかと末の末まで案じ置親の |
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安堵する方は娘の不機嫌。娘の好なは親の氣遣ひ 其處へは心の付かず。鼻の先の男撰み腹筋がよれる わい。親の指圖は天のさしづ親に背くは天にそむく 何國にて身の立べきぞ。殊更婦人は貴も賎も 親に添ふ日の無數もの。故に盡しても盡しても 盡し足らぬは女の孝行。嫁入りしては夫につかへ夫の 親に孝行盡し老ては子に従ふ身。産の親に仕るは 纔十五年か二十年。孝行は足らずとも親の望の方へ 行。氣を助るがせめての孝行涕もかんで涙も 拭早く帰りて孝行盡せ |
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其次は誰じゃ (第二話) 私渡世は小糠商賣まんまと口過はいたせども はかりきった身躰にて大晦日はずりはらひ。 年中糠働きをするも残念。商賣替を致す積り。 是々の内何商賣が性に合ん。御占給るべし。賣卜 翁の曰。何商賣も同じ事。一升入徳利は一升。遇と 遇ざるは時也。律儀一偏に仕馴た小糠よかるべし。 扨又爰に塞翁が馬といふ事がある。信をとって 能聞れい。其元の輕い渡世が藥に成て達者で |
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居るやら。商賣替て心づかひが多くなり煩ふて死やら。 替た商賣が繁昌して俄金持に成やら。其金故に 盗に逢ひ丸裸に成やら。往て見ねば知れぬ事じゃ。 西へ往たらば犬に噛まいものを東へ往て犬に噛れ たと思へども。西へ往かなんだが何程の仕合やら。内に 居ば此足は蹴缺まいにといへど。棚の物が落掛て 天窓へ疵が付ふやら。其疵のおかげにて持病の 頭痛が治るやら。人間萬事塞翁が馬。扨此人間 萬事の 内少しにても私が這入れば塞翁が馬とは 言さぬ。可爲事をせず爲まじき事をしての禍は |
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己がなす所なり。萬事に私を交へず慎み。其上に 来る禍福吉凶苦楽は塞翁どのに任すべし 其次は誰じゃ (第三話) 愚老が定命御占給るべし。翁の曰長壽が望ならば 将死とき我は百歳まで生たと思へ。百歳まで 生たと思へば百歳八十じゃと思へば八十唯八十の 百と思ふばかりの事也。七十にて死る人思違ひ にて八十じゃと思へば八十イヤく六十じゃと思へば 六十皆思ふ迄の事也。命は迹も無く先もなく |
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今ばっかりのもの也。我常に云ふ。世界皆同年。斯云 へばとて生死は在天に此方の知った事では無いと いふは舌長。其天明を縮るは人也。飲食衽席の不 養生。七情の用ゐやうにて一生の内幾年縮るも 知れぬ四十にて死る人天命は五十じゃやら。五十 にて死る人五十五が天命やら。醫書に曰我命在我 不在於天 其次ぎは誰じゃ (第四話) 此間打續夢見凶し御占給はるべし。翁の曰夢見 |
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